理事長メッセージ


理事長  内藤 祥

Credo(=経営理念)最も大事なこと

クリニックの理念とクレドとはほぼ同じ意味で使用する言葉で、僕が医療を実践する中で最も大事なもののことです。
大事にしているものはいくつもありますが、その中でも直感的に最も優先したいものとして「患者を断らないこと」と「スタッフみんなが楽しく働けて幸せであること」が挙げられます。これに優る優先事項はありません。他の何を捨てても、この2つを守りたい。これが守れないようならもうこのクリニックを続ける意味がないとさえ思っています。

1.患者さんを断らないこと(外向き)

クリニックは、外の患者さんと、内の医療者その他のスタッフを繋ぎ合わせる箱だと考えています。
その外向きの最優先事項は、困っている患者さんを断らないこと。困っている人や具合の悪い人はもちろん、体調が悪くない人であっても、体や心の悩みや困りごとを持ってうちのクリニックにやってきます。その人たちを入り口で追い返してしまうこと、診察室でうちでは診られないといって断ってしまうこと、いかなる理由であっても患者さんを放り出す行為を見るたびに心が痛みます。なぜ患者さんを断ってしまうのでしょうか。時間外だから、お金がないから、保険証がないから、専門の先生がいないから、検査器具がないから、取り扱いがないから、など理由は様々です。その様々な理由をひとつひとつ検証して、患者さんをできるだけ断ることがないように診療範囲を広げ、診療時間を広げ、受け入れや診療のルールを作ってきました。ビジネスクリニックのスタイルは便利さの追求だけではなく、何でも対応することで患者さんを断らないようにしたいという想いを具現化しているものでもあるのです。これはプライマリケアの5原則として、世界中の医療現場で尊重されている考え方です。
ルールは守るべきなのは重々承知していますが、例え受付時間が過ぎていようが、身分証や保険証を持っていなくても、クリニックを頼って来てくれた患者さんには何かしらの手助けをしてあげたい。その場で100%解決しなくても良い。応急処置や最低限の説明をして翌日の受診を促しても良いし、他の病院を探して教えてあげるだけでも患者さんの心が救われるでしょう。そういう想いをみんなにも心の奥底には持ちながら日々の業務に取り組んで欲しい。3年前の開院当時は、閉院後の夜10時にも残業をしているとドアを叩いてくる人がいて、中に入れて診察をしたりしていました。今でも自分の目の前で患者さんが残念な顔をしながらクリニックを出ていく姿を見ると、追いかけて引き止めてしまいたい気持ちになります。
私は患者さんを一人も断わらない病院で医師としての働き始めてその志を教え込まれ、その後も離島で自分しか医者がいない世界で暮らしていました。食事中でもトイレの中にもお風呂の中にも急患用携帯を持ち込んで、文字通り24時間365日を患者さんとともに生活していました。飲み会や島の祭りの打ち上げでも、ビール1缶までと決めてそれ以上飲むことはありませんでしたし、離島診療所から徒歩または車で15分以上の範囲には出ないように行動範囲も自制していました。釣りによく誘われましたが、港は携帯の電波が入らないので行けません。きれいな海で泳ぐことも、携帯に気づかないので当然しませんでした。
そこでの3年間は精神的にもきついものでしたが、医療の本質は今でもその姿勢そのものだと思っていますし、心の奥底にある判断の軸は今も変わっていません。このことを本質的にスタッフ全員が理解し、自ら判断できるようになることがあれば、もう日本一の医療機関と言えるでしょう。患者さんを断らずに受け入れるということは、それだけ大きなことに取り組んでいるということです。

2. みんなが楽しく働けて幸せであること(内向き)

次に内向きのスタッフの話ですが、これは私がクリニックを自分で始めるまではどれだけ重要であるかが分かっていませんでした。ただ今は家族のように大事に思っています。家族そのものです。たまたまですが自分の子供が生まれるのとほぼ同じタイミングでクリニックも分院が増え、多くのスタッフとの出会いがありました。付き合いの長いスタッフや立ち上げを一緒に頑張って支えてくれたスタッフにはやはり特別な思い入れがありますが、私は全てのスタッフのことを家族同然に大事に思っていますし、スタッフ同士もそういう思いでいてもらえるならそれほど嬉しいことはありません。
これも私の医師人生初めての病院が、野球部の合宿所のような病院で5年間を同僚や先輩後輩たちと一緒に院内に寝泊まりして仕事に日々没頭していた経験に由来しているのかもしれません。その当時の仲間とは今でも強く深い絆で結ばれていて、同じ価値観を共有できる、人生の友だと思っています。
最近は努力の甲斐あって大きなクレームはだいぶ減ってきましたが、開院してからの1年くらいは毎日のように色々なクレームが出ていました。受付スタッフや看護師が立たされて患者さんから頭ごなしに罵倒されている姿を見るのがつらく、診察を中断して自分でクレーム対応に当たったり、間に入ってスタッフを守ろうと患者さんと言い合いをしたりしました。それが原因で口コミにも具体的にやり取りを書かれて評判を落としたこともあります。今、日々身を粉にして取り組んでいる現場の改善やルール体制作りは、この当時の経験からスタッフを守ることが目的で本気で始めたものです。はっきり言いますが、患者さんとスタッフのどちらかを選ぶ場合には、迷わずスタッフのことを優先します。この優先順位は変わることはありませんので、スタッフの心の幸せを犠牲にしてまでやらなければならないことはひとつもありません。
医療現場において、商品力はスタッフの人間力そのものです。スタッフが楽しく幸せでなければ、良い医療が提供されるはずがありません。スタッフがいかにやりがいを持てるかが、うちのクリニックのレベルそのものだと思っています。ですので、スタッフのモチベーションやスキルをあげることは何でも取り組みたいと思っていますし、費用も惜しみません。私が普段みんなと世間話をしていて、スタッフで遊びに行った、ご飯を食べに行ったという職場外でのスタッフ同士の交流の話を聞けたときが一番嬉しい瞬間です。スタッフ同士の人脈が広がっていることを聞けただけで、クリニックを始めて良かったといつも感じます。まだまだ創り始めたばかりですが、この想いをみんなが同じように持つことができれば、日本一働きたい職場にすることも夢ではないはずです。
私の好きな作家の村上龍が、職場の存在意義を定義しています。生活の糧を得る場、プライドや社会的な存在価値を見出す場、そして人脈形成の場です。特に後者2つに関しては、開業当初より常に意識して創り上げてきました。スタッフみんなに楽しくやりがいを持って活躍してもらいたい。これは何よりも優先される事項で、そのためにはいかなる労力や代償も厭いません。

Vision(=あるべき姿、常に追い求めたいこと)

1. 医療現場の効率性および生産性向上(医療者向け)

医療従事者が快適で効率良く仕事ができる医療現場を創り上げる
医療現場は2019年現在でも非効率の塊です。システム化が進みにくく、手書きの書類が多い、確認作業が多い、実を伴わない形式的な業務が多い。それだけでなく縛りが多く医療者が本来の能力を活かしきれていません。自分のイメージでは雨の後のぬかるんだ地面で足を取られながらサッカーをしているように感じています。
研究データでは、医者が患者一人に10分かけるとき、そのうち6分はカルテ記入やオーダーなどの事務作業に使用されているとされています。これをシステム改革により30秒にしたい。すると5分30秒が新たに生まれる。看護師問診による分業を進めるとさらに2分30秒が新たに生まれる。患者さんの待ち時間が減るし、診断や治療方針の説明に使える時間が増え、何より医療者の業務ストレスが減るのが大きな目的です。研修医の頃、患者さんをどんどん診たいけど、数をためてしまい、記載カルテが膨大に残ってしまい気が滅入った記憶が強く残っています。他の病院でアルバイトをすると手書きのカルテが多く、毎日全く同じ内容の記載を20回も30回も繰り返し書いていて、無駄なことをしていると残念に思うことばかりです。
真に快適でストレスのない医療現場を追求したい。それが医療者の生産性を上げるのみならず、ストレスを減らし、モチベーションを上げ、組織力の向上に大きく貢献するに違いありません。少なくとも私は快適な医療現場で働いていきたい。分業とシステム化を徹底的に進めることで、医療者の能力を存分に活かし、きれいに整えられた芝のグラウンドでサッカー選手に走り回ってもらいたいのです。

2. 標準的な医療の提供(患者向け)

患者さんへいついかなる状況でも標準化された高水準の医療を提供する
医療の質の原則は標準化です。神の手や天才的な頭脳を持つ特殊な人材による特別なものではありません。90%の標準的な医療水準の上に、個別に個性化された医療者個々の特性が存在します。これは患者さんへのカスタマイズの話ではなく、提供すべき医療の話です。100人の同じ病気の患者さんに対して、対応する医療者がバラバラの治療を行っていてはどうなるでしょうか。どの治療が適切なのか、対応する医療者によって治療の良し悪しが変わることは質の低さを意味します。100人の同じ病気の患者さんには、最も確実で信頼性の高い治療が全員に同様に提供されるべきです。
これを実現するために必要なものがEBM(実根拠に基づいた医療:Evidence Based Medicine)です。これは世界標準の治療のことで、ISO9001のようなものです。製造業であっても、まずはISO9001をすべての製品が達成した上で、その会社独自のオリジナリティで付加価値をつけることを考えているはずです。医療も同じで、生産管理と考え方はとても近いです。私が普段よりシステム開発やデータ分析にエネルギーをつぎ込んでいるのは、何より医療の標準化を追求していることに他なりません。

3. キャリアアップのプラットフォーム(内部スタッフ向け)

企業や病院、医療者、研究者、学者たちが集まり新しいものが生まれるプラットフォームになる
プラットフォームとは、足場のことです。若く能力のある人たちが社会で活躍するための踏み台になりたい。これはこのクリニックを始めた大きな理由の一つです。沖縄の離島では人生でかけがえのない経験ができましたが、離島勤務が終わった後の継続したキャリアパスがありませんでした。多くの先輩達が同じ悩みを抱えており、残念なことにそのほとんどの医療者が専科へ転科していきました。プライマリケアと総合診療に若い時代に打ち込んできたものの、離島や僻地でしかそのキャリアを活かせる場所が日本ではありませんでした。プライマリケア自体が日本では新しい概念で、まだ真の意味で実践している医療機関は日本でも数えるほどしかなく、患者医師関係の構築がしやすく地域にこの枠組が馴染みやすい田舎や僻地がプライマリケアのフィールドとされていました。それは今でもそうです。しかし都会でも、プライマリケアを実践したい。多くの若いプライマリケア意識の高い医療者が、その道を諦めずに、出身地や情報の多い都会でも活躍できるような場所を作りたい。それがプラットフォームという考え方です。
活躍の場はTBC内であっても、その外であっても良い。TBC内にいることがスキルアップやキャリア形成にとって有利と思えるならいつまでもいてもらっても構わないし、留学や学位取得などのキャリアパスが見つかればそれに向けての準備期間のみTBCに関わってもらっても構いません。留学や新生活の資金確保の目的であっても、人との出会いや情報交換の場としてでも、ベンチャー企業立ち上げの実験の場であっても、そして医療者でなくても接客行や医療事務の専門家としてでも、スタッフ各々の人生のフェーズによってTBCへの関わり方が異なって構わない。いつ入ってきても、いつ出ていっても構わない。そういった、志の高い人たちが気軽に集まるコミュニティ、行く先を俯瞰できる宿り木のような場になりたいと願っています。

4. チャレンジ(医療業界向け)

新しいことしかしないチャレンジ精神を追求する
私が沖縄県で救急医療5年、離島医療3年を終えたとき、都会でも沖縄県の離島のように一次救急とプライマリケアを実践できる組織を作りたいという想いがありましたが、イメージとしては一般的な郊外住宅型の家庭医療クリニックで、これまでの経験からは手稲家庭医療クリニックのようなスタイルを出身の八王子辺りで実践するような将来像でした。同僚の勧めで慶應ビジネススクール(KBS)に2年間通い、これまでの自分の考えが一変します。当時は自分がやりたいことであるVisionはもともと明確でしたが、それを具現化させるためにMissionがまだ不明瞭でした。KBSではマネジメントの学問を習得することで、正にやりたいことを具現化するための方法論や手段を沢山手に入れることができました。そして世の中を変えるインパクトのある事業を起こすアントレプレナー精神を持つべきであると学びました。私がKBSに入学することを決意した最大の理由は、恩師の田中滋先生に教えを請いたいという想いでした。その恩師より在学中に、都会の働く若い世代への予防医療の提供こそ今日日本の医療課題の最たるものであることを指摘されました。そこから都会型プライマリケアの具体的なスタイルとして、ビジネスクリニック構想を1年かけて練り上げ、これが今でもTBC Missionの骨格を支えています。
こうした経緯の根幹にあるのはチャレンジ精神です。世の中には頭の良い人、優れた医師、大きな組織が無数にあり、私のような弱小若輩者が他と同じことをしても大杯の一滴にすぎません。それならばまだ未開拓のジャングルを突き進み、険しい中の小さな小道でも作ることができればその方が世の中への貢献があるのではないでしょうか。まずはサービス業で最も自由化と競争が進んでいる飲食業界と同水準にすべてを持っていくことを目標に、医療としては非常識で型破りなことに次々とチャレンジしていきます。うまくいかなければすぐにピボットできるので、これまで大きな失敗だと感じたことはありません。医療の本質は王道を貫くという点は頑なに守っているので、その線引きに注意したいところです。

 

Mission(= 社会的な課題、目の前で実践していること)

ビジネスクリニックモデルとは、都会でプライマリケアを実践する際に求められるものを体系化した概念です。
初めに骨格として以下5つの柱を設定しました。私たちが日々取り組むべき医療範囲はこの5つに基づきます。
いずれもプライマリケアの5つの理念を含みます
プライマリケアの5つの理念

近接性

近接性とは、通いやすさのことです。プライマリケア学会のクリニックはまず第一に通いやすいことが重要です。通いやすさとは、地理的、経済的、時間的、精神的、この4つの要素に分かれます。特にビジネス街におけるニーズとしては場所と時間に対する要求度が非常に高いことが予想されます。よってビジネスクリニックの近接性における重要な要素として立ち寄りやすい場所にあること、待たずにいつでも気軽に受診できることこの2つが重要です。

包括性

次に理念の2つ目の包括性についてですが、これはビジネスクリニックの大事にしている、何でも誰でも診ると言う言葉の通り、予防から治療まで、子供から老人まで、全身を、診療科の垣根なく幅広く診療することです。何でも相談してほしいというコンビニクリニックの根源にはこの包括性の理念が横たわっています。

協調性

3つ目の協調性ですが、これは私たちのようなプライマリケアの医療機関と専門医との連携、あるいは医師と看護師の能力を最大限に生かすための分業、別の視点からは地域の重要なプレイヤーとの協調、これはビジネス街においては企業との協力と言うことになります。さらに社会的資源として鉄道などのインフラや、クリニックが入る館との協力体制も重要な要素です。

継続性

4つ目の継続性。これはビジネス街におけるかかりつけ医として、病気の時も健康な時も一貫して関わっていくという意味です。人にはバイオリズムがありますので、仕事が順調な時もあれば体調を崩して生活そのものが悪循環となっているようなときもあります。季節によっては感染症が蔓延することもあれば、社会の調子が良く海外にどんどん出ようというような前向きなフェーズもあります。良い時も悪い時もどんなときでもそこで働く人たちの健康サポートしていける、継続的な関わり方ができるクリニックであるべきだと考えています。

責任性

最後の5つ目は責任性です。これは医学の本筋から外れることなく、エビデンス・ベースド・メディスン、根拠がある世界的に標準化された医療を頑なに守り実践することです。医療は個性を以て提供すべきではなく、科学的な根拠に基づいた標準的で均質なものを常に提供することがそのあるべき姿です。そのために医療者の教育と研鑽、患者への説明、これを一時も怠る事は許されません。

以上の5つのプライマリケアの理念を基本として、これをビジネス街におけるプライマリケアに落とし込むとどうなるのか。それを開業前の2年間で考え続けました。結論として以下に示す5つの柱が都会型のプライマリケアクリニックとしてのあるべき姿であり、この5つの柱を総称して「ビジネスクリニック構想」と呼ぶことにしました。

1. ホームクリニック

普段元気だが治療すべき持病があるビジネスパーソンのかかりつけ医
その名の通りビジネス街においてもかかりつけ医は必要です。
ビジネス街で働く人たちの特徴として、知識階層が多く医療へのリテラシーが高いこと、また別の視点ですが労働生産性が非常に高い人たちであると言う2つの特徴があります。

医療へのリテラシーが高い患者に対して行うべき事は患者教育と適切な情報の提供、また受診にかかるコストやハードルを限りなく下げることが重要です。標準化された適切な医療を提供し、その根拠をきちんと説明することで、彼らはセルフケアが可能です。セルフケアができるビジネス街の人たち、これがビジネスクリニックのコアとなるターゲットだと考えています。医療へのリテラシーが高い人が集まるビジネス街においては、手取り足取りその患者の生活を指導することは求められず、冗長な説明も嫌われます。論理的で要点を得た説明と治療内容が評価されます。そして時間的な要求も高く、このどちらかが欠けるだけで通院コンプライアンスは著しく低下します。一般の住宅地型のクリニックとは重視すべき点が全く異なるとこと、これを念頭に置いて日々の診療に取り組まなければなりません。

そして次に、極めて労働生産性の高い人たちに医療を提供しているということも、決して忘れてはいけないことです。アメリカで最近議論の的となっているアブセンティズムとプレゼンティズムと言う考え方があります。アブセンティズムは言葉の通りわかりやすく労働生産性の高い人が仕事を休んだ場合にその会社やひいては社会が被る経済的損失のことを指します。例えば、月収200万円のビジネスパーソンが1週間仕事休むとその企業と社会は50万円の損失を被ります。しかし見逃されやすいのがプレゼンティズムの概念です。プレゼンティズムとは出社して仕事をしているものの、何かしらの体調不良があり平時よりパフォーマンスが落ちている人たちのことを指します。例えば咳が止まらなくて仕事にならない人、花粉症の時期にティッシュ箱を抱えながら集中できずに漫然と職場でパソコンいじっている人、これらは明らかに医学的な理由でその労働生産性が落ちているはずです。経済学的にはこれも金額ベースで計算することが可能で、例えば先程の月給200万円のビジネスパーソンが、毎日出社していても体調不良を我慢して仕事効率が四分の一になっているとすれば、前述と同じ50万円分の経済的な損失となるのです。こうした隠れた経済的な損失が年間で数兆円規模もあるとも言われています。ビジネスクリニックはこのアブセンティズムやプレゼンティズムに介入できる余地が大きく、こうした労働生産性の高い人たちが通常の病院のように半休の3時間をかけて医療機関を受診することなく、的確かつ最小の労力でパフォーマンスを元に戻すような治療を受けられる事は、患者個人の健康というレベルを超えて企業や社会的な経済に対する価値が非常に高いと言うことです。こうしたメインターゲットとなる人々の特徴を学術的にもきちんと把握した上で、この若い世代の医療難民という社会的な課題に介入すべきだと考えています。

2. コンビニクリニック

いつでも、気軽に立ち寄れ、何でも診てもらえる、コンビニのようなクリニック
医療経済学にフリーアクセスと言う言葉があります。これは2つの意味を持ち、1つは経済的なハードルがなく誰でもどんな医療機関でも受診できるという考えで、もう一つは患者自らが初めから希望する診療科や医療機関を好きに選び受診できると言う意味でも使われます。これは世界でも類を見ない日本特有の医療政策上の優れた点であるのですが、一方で医療機関の内部は極めて保守的な縦割りの構造が戦後より今も変わらず続いていることもまた事実です。これは制度では介入しきれないヒエラルキーの歴史でもあります。なぜこのような医療機関の保守的な行動が変わらないのかと言うと、医療がいまだに提供する医療者側の視点で成り立っているからです。例えば整形外科の病院は、整形外科の問題であれば診るから来てくれて構わないが、それ以外の体のトラブルはわからないので相談されても知らないよと言うスタンスです。本来医療も他のサービス業と同様に、利用者側の視点で提供されるサービスが定義されるべきです。他の業界では当たり前のことですが、医療業界ではこのように利用者側つまり患者側の視点で医療を提供している病院はほとんど見当たりません。ビジネスクリニックはあくまで利用者である患者の視点で、クリニックを利用するメインターゲットが必要とするものであれば、内科であっても外科であっても、皮膚科であっても、あるいは予防医療や元気になるためのサポートであっても、医学的な適用よりも会社の要求や制度上必要とされるものであっても、提供すべきだと考えています。患者のニーズに寄り添うこと、患者が必要とするものであれば医療の本質を外れない範囲であらゆるものに対応できるよう努力すること、これがプライマリケアクリニックのあるべき姿とだと考えています。医療業界においてコンビニと言う言葉は、コンビニ受診のようにネガティブに使われることがほとんどなのですが、ここに一石を投じるために簡略的にコンビニクリニックと言う言葉をわざと前面に打ち出しています。なんでこんな言葉を使うのかと知り合いの医者には何人からも聞き聞かれましたが、あるべき姿を端的に表したなんともわかりやすいキャッチフレーズだと思い今も使っています。ちなみに商標登録を出して審判まで持ち込みましたが、最終的に商標取得出来ませんでした。

3. インターナショナルクリニック

外国人のビジネスパーソンや観光客は医療難民
これは言葉の通り、都会型のプライマリケア学会クリニックは、インターナショナルであるべきだということです。当然ながらビジネス街には多くの外国人が働いており、それには外資の企業も国内の企業ももはや関係がありません。実は日本は移民や外国人労働者の数では先進国で既にトップクラスの対外的に開かれた国となっていて、ビジネス街はまさにその最前線です。一方子外国人が受診できる医療機関が極めて少なく、他の業界に比べても英語や中国語の外国語対応が著しく遅れているというのが現在の医療業界の現実でもあるのです。観光局のデータでは、海外からの旅行者が日本で医療を受けたいと感じたとき、本来の治療ニーズのうち実際に医療機関を受診できた割合は10%以下と言うデータさえあります。ビジネス街において外国人は医療難民の最たるものなのです。日本の医療機関は、いまだにこの外国人対応の意識が低く、他の国際都市に比べて、特にこの医療業界での国際化は明らかに遅れています。そしてこのことは優れた外国人の人材採用や外国資本の獲得において、日本のリスクだと考えられていて、これが日本を避け中国や韓国の国際都市へ人材や資本が流れる原因の1つとなっていると言われています。その意味でも外国人にきちんとした医療提供できる医療機関が存在することは、社会的な価値を生み出す大きな力なのです。
ではどのようにしたら外国人を受け入れられる医療機関になるのでしょう。現在日本にあるインターナショナルクリニックと言われている医療機関のほとんどが勘違いをしているのですが、一部の通訳者や医者だけが英語を操りそれで医療機関として外国人の受け入れを行っても、はっきりとそれでは不十分です。これは非常に非効率でかつ容易にキャパシティーに限界を迎える方法です。私の考えるインターナショナルクリニックは、全スタッフが英語や中国語などの外国語を操り、外国人の患者さんが電話で問い合わせをしてくる時点から、クリニックに入って初めに質問をする内容、受付をするための個人情報のやり取りや診療はもちろん、検査や処置等の説明を受けるプロセス、そして現金を持ち歩かない外国人がキャッシュレスで支払いを完了する、もしくは保険会社や企業に請求するための外国語での診断書や請求書の作成、その後の薬の受け取りや医療費の請求までの全てが外国語で完結される必要があると考えています。診察が英語でできたところで、外国人が医療を受けられるプロセスもわずか1つを満たしただけに過ぎないのです。私たちのクリニックでは外国人が受診する全てのプロセスを洗い出し、これを全て外国語対応することを意識して運用体制の構築やスタッフの教育を行っています。最近ではこうした環境で国際的な経験を積みたいと応募してくる医師や看護師、受付のスタッフも少なくありません。他には負けないインターナショナルな環境整えることで、それが働く職場としての魅力にもつながっているのです。

4. トラベルクリニック

Inbound・Outboundともに都会では渡航や移動のリスクあり
この渡航医学の分野は、開院当初から開拓したいと常々思っていたのですが、想像以上に都会において需要が大きいことがわかってきました。これもビジネススクール時代に、同期生たちが海外留学をすることになった際に、留学先の国や学校から求められるワクチンや英文診断書を受けられるところがどこにもないと相談を受けたことがその始まりでした。当時確かにいくら探しても都内には老舗と呼ばれるトラベルクリニックが3つか4つあるのみで、どこも予約は1ヵ月待ち、値段や接種までのプロセスは一切公開されておらず、英文診断書は1通2-3万円もかかり所要2週間と、極めて独占的で閉鎖的な領域だと感じました。医学的にはまさにニッチな領域だったのです。しかしここもプライマリケアの視点から見れば、このような予防医学こそオープンでアクセスしやすく皆が予防医療を享受できるべきであるというのが私の考えです。よってこの領域に風穴を開けるべく、ワクチンの値段を全て公開し、予約不要で相談に来た当日から接種が可能、英文の診断書も可能な限り即日発行、最短の日数でかつリーズナブルな金額で提供できるものを打ち出しました。これはまさに業界初のことで、4年経った今でこそビジネス街に開院する多くのクリニックが渡航ワクチンを扱うようになっていますが、当時は唯一無二のサービスといっても良いものでした。それでも初めはなかなか利用してもらえる患者数が伸びませんでしたが、ひとつひとつ輸入ワクチンを導入し、ガイドラインを整え、取り扱いのできるワクチンや国の要求をコツコツ増やしていくことで、ビジネスクリニックの中の大きな柱に成長しました。そしてこの領域はこれからもまだまだ成長の余地があると考えています。内部的には、他の医療機関では学べるところがほとんどないほど専門性が高いため、渡航医学を学びたいと門を叩く医療者が次々と増えていますし、複雑で専門的な内容を皆で学習することで学ぶ喜びや自らのスキルアップにつながっているという実感も得られます。そして何よりプライマリケアの重要な考え方である、予防医学の最たるものでもありますので、この分野の普及はクリニックが目指すべき方向性にピッタリと合致しているのです。

5. メディカルコンサルティング

気軽に相談、検査・治療方針の決定から振り分け紹介まで
最後に働く人々の企業に行う専門的な医療相談(メディカルコンサルティング)は、今後大きな可能性を秘めた成長性の高い柱です。これはビジネス街で働く患者個々の健康相談にとどまらず、出張のワクチンや特定の検査を依頼してくる企業への専門的な情報提供、または産業医としての働く人の労働環境をサポートすることもこの領域と言えるでしょう。また周囲の医療機関に対するコンサルティングも内包しています。ビジネス街でプライマリケアを実践すること、働く人たちが求める医療ニーズを提供すること、そこで必要とされるサービスのノウハウや都会型プライマリケアで求められるものの全てを調べ上げてパッケージとしてまとめてガイダンスすること。あるいはテレビや記事などの取材を受けて世の中の注目される医療トピックに正確な情報を発信することもビジネスクリニックの目指す方向だと考えています。繰り返しになりますがビジネスクリニックは目の前の患者をサポートすることを第一としますが、さらにはその背景にある企業やそこで働く組織全体を包括的に捉え、上位概念としては地域における経済活動や、社会が求める医療ニーズに応えることでその地域ごと価値を高めていくことができるよう、広く高い視点を常に持ち続けて日々の活動に取り組みたいという信念を持ち続けています。

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